戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
独り暮らしのため東京では感じられない畳みの匂いに、傍らで寝転ぶおばあちゃんの口調はいささか心地良いもの。
ただ懐かしい安らぎと同時に、違和感を覚えたのもまた事実。
名古屋は大好きで、大切な場所だと強く思う。それなのに今、落ち着ける場所が此処はないと――
「本当に帰るのかい?もう少しいれば…」
翌日の朝は不思議と5時過ぎに目が覚め、てきぱき身支度を始めればあっという間に終わってしまった。
今日は世間的に休日なのだから、どこか寂しそうなおばあちゃんが遠慮がちに聞くのも無理ないだろう。こ
ちらとしてもニッコリ笑って、“ごめん”と謝るのは辛いものだ。今日からまた、この家で独りにさせてしまうのだから。
「今回は時間が無くてゴメンね。本当にありがとう」
「当たり前だよ、また何時でも帰っておいで」
「うん、ありがとう。今度来る時はもっと早く連絡するからね。
次は買い物やご飯も食べに行こうね」
「本当かい?そりゃあ楽しみだわ」
いざという時に帰る場所があって、待っていてくれる人がいることが、これほど肩の力を抜いてくれるとは知らなかった。
おばあちゃんのたった一言で救われて、ようやく心の底から笑えた気がしたの。
逃げるためだけの帰省という、小さな罪悪感は笑顔で伏せて、今度はもっと早くおばあちゃんに会いに来たいな…。