戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
まだ夜明け間もない、ほの暗いなか家へ呼び寄せたタクシーにひとり乗れば、静かにその車は名古屋駅へと向かって走る。
おばあちゃん家がある白壁という閑静な高級住宅街を抜ければ、公官庁がそびえ立つビル群あたりにさしかかった。
昨日はすっかり夜も更けていたため、数年ぶりにハッキリ見られた名古屋の景色はやはり懐かしいなと思えた。
そう懐古をしながら、どうしても失せないこの不実な思いは開き直ることが一番なのかもしれないな。
ほどなくして名古屋駅のロータリーに到着したタクシーを降り、時間帯のためか割に人のまばらな新幹線口へ向かう。
ロボット男に返らないと言って逃げて来ながら、実は昨日まとめてネット予約していた東京行きのチケットの出番。
それをバッグから取り出して改札をくぐれば、冷たい空気を感じてのプラットホームで過ごす時はひどく寂しい。
ちなみに今日のファッションは、トゥルーレリジョンのブーツカットデニムに、シンプルな白シャツを合わせたスタイル。
昨日と打って変わり、クールさを気取っているのは私なりに引いた拙い防御線。男に染まっていた訳じゃない、私にもポリシーはあると――
このスタイルのお陰かは不明だが、ロボット男お見立てなトリーバーチのパンプスでも昨日より足取りが軽くなった。
到着ベル音とともに停車位置に停まった新幹線へ乗り込めば、その気持ちがさらに色濃いものとなるから。
東京へと高速で一直線に戻っていく車両の中、ようやく光を失ったままだった携帯電話の電源を入れることが出来た。