戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
日々進化発展な新幹線のお陰であっという間に東京へ到着し、トランクを転がしては賑わしい街へと溶け込む。
約1時間ほど前まで滞在していた名古屋とは違う、大都会の喧騒と街並みは一気に現実へ連れ戻す感覚だ。
乗り込んだタクシーに目的地を告げて静かに到着した先は、私の現在の在り家となっているマンションだった。
「おはようございます」
「おはようございます」
相も変わらずご丁寧なコンシェルジュさんと恒例の挨拶を交わせば、ひとり静かなエレベーターへ乗り込んだ。
高速エレベーターはあっけなく上昇し、到着音の後すぐ開いた扉に何とも言えない複雑な気持ちだ。
この先に見えるドアこそ自身の帰り場所だが、入りたいのに反してどこかへ行こうと足の竦む感情が入り混じっていた。
やけに重く陰気な溜め息をくっと呑みこんで、荷物とともにドアの前に立つ。
不思議と見慣れてしまっているらしい、この部屋のキーをバッグから取り出すと。そのキーを鍵口へ差し込むより早く、ガチャリと内側から勢いよく開かれたことで驚かされた。
「――遅いですね」
「…な、んで」
「この場合、先ず“何を仰るべき”だと思いますか?」
しばし呆然と目をパチパチ瞬きしている私に尋ねて来たのは、これこそ予想外だったロボット男であった。
まさかのご対面になったが、嬉しくも何ともないわ。その真っ黒な瞳の色を介して、彼の感情をさすがに察知できたから。
早朝から冷たい声色を響かせる彼のせいだろうか、ひやり頬と心に冷たい風がなぜか当たった気がした。