戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
少しばかり強気で居られるのは、どうやら今日のクールなスタイルも一理あるだろうとパンプスを脱いだ。
「怜葉さん」
ほっとしたのも束の間、もう一度その冷たい声色で単調に呼んでくるから、緊張で思わずビクリと肩が小さく揺れてしまった。
「何でしょう?…高階専務」
だけども、この男に何も悟られたくないからと玄関フロアへ振り返ってみれば、殊のほか声が震えてしまうから情けない。
どうすれば、いつになれば、ぶれない“強さ”を手に入れられるか教えて欲しいほど。
この真っ黒な瞳と対峙する度に、ドキリと高鳴りながらギュッと苦しい胸の痛みが嫌になる。
美麗な顔で無言のままに見据えられると、“無でいられれば、怒られるより辛く苦しい”ものだと知っているから。
その古傷を理由に、逃げに走ろうと口元を緩めればピキピキ強張って、また引きつり笑いを晒すだけだ。
一層のことシンと静まり返っていた大理石の玄関フロアは、ジワリジワリ私の居場所を失わせていく。
「貴方は何も分かっていない」
「なにが、です?」
薄めの唇がようやく発した、否定されるだけの言葉は逃げ道がなくて。
温情ゼロらしい男から、目を逸らしたくなるのを堪えて尋ね返したものの。
「正直に言えば、不愉快です」
「…っ、」
こうもオブラートに包まず言われれば、さすがに辛いものがあった。
グサリと胸を抉ると分からないのだろうか?