戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
はじめから分かっていた筈なのに、ハッキリ面と向かって言われれば強がりさえ紡ぎ出せなくなる。
次を放たれることに慄いて、俯き加減で彼が横切るのをひたすら待った。
その間にも残念なことに、ツンと目の奥に痛みを感じはじめて、無用な涙を零しかけていた私。
ああダメだ、泣きたくなんてないのに…。
無言を貫くと決めたところで再び静まり返った空間は不思議と、昔の自分を弱さを呼び寄せるから。
さ迷いながら彼のシャツ付近へ焦点を合わせ、道中で決めて来た通り“無になろう”と決め込んだ。
まさにその刹那、数歩ほどの距離がグッと縮まった。
自身の状況変化に気づいた時には、もうロボット男の逞しい腕の中へと収まっていた。
「これほど手を煩わせる方に出会ったのは、人生で初ですよ」
「…た、かしな、せん」
「まだ言いますか?」
初めてふわりと鼻腔をついた、ユニセックスで複雑な香り。
それがなぜだか懐かしく感じさせ、どうしようもなく心はドキドキと鼓動が脈を打った。
もう一度、いや何度でも。この場で“高階専務”と言いきらなければならないというのに。すべてが相俟って、ぐっと言葉を詰まらせる。