戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
ダメなところを必死に隠して隠して、いつでも誰にも奥底の本心は見せることが出来ずにいたのに。
それを簡単に引きずり出しては軽く笑うから、このロボット男の手中に嵌まってしまう。
だけども、きちんと弁えているつもりだ。
これは互いの利潤ゆえ成り立った、偽者の関係のために必要不可欠な甘言であって。
早くも勘違いしかけたこの距離から早く、“専務”と呼んで逃げることさえさせないヒドイ男とも分かっている。
それでもどうして私は、この勝手すぎる男の出迎えに嬉々とし、言葉を素直に受け入れているのだろう?
これはどんな形であろうと、私という人間を必要としてくれることが理由であろうと感じる。
今ここで早く、貴方はヒドイ男だと言い切らなければ。このまま…いや、もっともっと虚しい感情だけに苛まれてしまう。
「さて、急いで準備しましょうか」
ようやく素直じゃない女の応答に、幾許かは満足したのだろう。ロボット男はスッと私の体勢を戻すと自然に離れた。
「ええ、TPOは弁えますから安心して下さい」
すぐに開いた距離に悲しいと感じる方がダメなのだから、ただ無表情にこの時を過ごすことが正解である。