戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
ゴー・サインにツンと素っ気なく答えたものの、今のクールスタイルで出掛けられるほど度胸もなければ自信もないのが本音。
言葉と裏腹な性格はきっと、いつまで経っても直りそうにない厄介なものだ。
「そうですね。貴方を信じていますよ」
「…演じるのは嫌いじゃありませんから」
「それはよく知っています」
よく言うわ、ウソ吐きも良いところでしょう。
この男はいったい私の何を知っていて、何を信じていると言うのだろうか?
その冷たい真っ黒な瞳と静かに対峙すれば、先ほどまで抱き締められていた感覚が疼いて仕方ないけども。
どこまで突き詰めても私利私欲を肥やすための関係に、僅かな望みを持とうとすることが間違いである。
互いの薬指に填まっている所詮はイミテーションの指輪と同じく、偽りの言葉はこれ以上聞きたくない――
このヒドイ男が嫌いだとか、正反対な好きという感情を抱いても、とにかくこの先には何も残らないから。
何かを求めれば求めるほど虚しくて、独りよがりを助長するだけの毎日など二度とごめんだわ。
それに蓋をするためにも、今やらなければならないことを、ひとつずつこなすしかないと納得させられた。