戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
こうして着物をよく着ていたのは、随分と昔の話だというのに。どれほど経っていても、スッと光景が蘇えって来るとは――
下着の上に長襦袢を着たあと、その上に着物を裾合わせをしながら丁寧に重ねれば。
前後のおはしょりを整えつつ、伊達衿などとのバランスに注意しながら着付けていく。
そして重要となのが“楽”に過ごせるかの要となる、名古屋帯の“お太鼓結び”だ。
長い帯を両手で持ちながら、作りあげたお太鼓の中へ帯を通して丁寧に結び上げる。
まだ着物愛好者の年齢域では若い層だし、あえてお太鼓を大きめに作っているのがポイント。
ともすればシンプルに纏まってしまう名古屋友禅の上品さも、これで仕上がりの印象が変わってしまう。
さらにおばあちゃん曰く、私のような小柄体型にはその方がピッタリともいわれていたのだ。
力を込めて縛る時のキュッという紐や帯同士の擦れ合う音は、不思議と身まで引き締まる感覚で。
今は滅多にしない和装だけど、この顔立ちや髪色の自分にはしっくりと思わされた。
これではまるで心が着物が着たいと、暗に言っているようで中途半端な思いが駆け巡った。
あれこれ考えながらも手だけは休めることなく、着つけ終わったあとは全身鏡でチェックする。