戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
この方が高級ブランドで身を包むよりよりずっと良い。まだ肌寒いだろうからと、お羽織りを掛ければ。
最後にこれも譲り受けたハンドバッグを手にし、ようやく部屋を出たのは1時間後――
「お待たせしました」
少しだけ気まずさで声は震えたが、リビングのソファでPCへ鋭い眼を向けるロボット男へはその呼び掛けが届いたようだ。
「――なるほど」
瞬時に真っ黒な瞳が、PC画面からこちらへ移動した。ジッと品定めされるかのような眼差しは、それだけで実に居心地が悪い。
「…地味顔には、この方が合うので」
PC画面をパタリと閉じ、徐にソファから立ち上がったロボット男が向かって来るから、なんとも自虐的な一言を付け加えておいた。
彼にハッキリ何か言われるより先に言っておけば、この日本人的な自身の顔も着物向きだと慰められるからだ。
「…誰もそんな事は言っていませんよ。
今日の落ち着いた薄紫色と模様は、名古屋友禅の手描きですね?
綴れの銀糸織の名古屋帯とも合って、綺麗に着こなしてみえますよ」
「…それは、光栄です」
すると呆れた溜め息を吐き出したのち、評論家のごとく詳しい解説まで頂けるとは驚くばかりだ。
もしや貴方は着物にまで精通していますか?とお尋ねしたいところだが、お世辞をひとまず受け入れることとした。