戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
案外と着物姿で車に揺られているのも辛かったりするのだが、そう言ってもいられない状況が続く。
べらべら話すのも嫌いだけども、無言で過ごすのも苦痛極まりないものだなと思う今日この頃だ。
「着きましたよ」
緊張感が立ち込める2シーターの車に乗せられて、ようやく辿り着いたのは一軒の大きな邸宅。
マンションを出てから約20分後――まさかの超高級住宅街に、気疲れまでプラスする。
高い黒の鉄格子で囲われたブラウンの壁が重厚さを増し、どこか威圧感をも感じてしまう。
不思議と無機質さの漂う洋風建築が、この男が育った住処かと納得していれば。
前触れもなく開いたシャッターの向こうに捉えたものは、家とお似合いの車がズラリと並ぶガレージだった。
それを当たり前にして、スッと空きスペースへ車を進入させたロボット男にもはや唖然とする。
よし今度こそ降りなければ、と意気込んでシートベルトへと手を掛けた瞬間、左方から伸びて来た大きな手が重ねられる。
「何も心配せず、貴方らしく振る舞って下さい」
「っ、大丈夫ですから」
くっと息を呑んだものの、どうにか平静を装えたと思う。
暗にこの男が“力を抜いて万全の演技”と、望んでいることは分かっている。