戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
今日はアノ日とはまったく違う笑顔を見せて、嫌味にすかした男の胸へと寄り掛かって離れようとしない。
むしろ引き離そうともしないロボット男の態度が、彼女の立ち位置をご丁寧に教えてくれた。
何時になくフランクな口調にしても然り。偽の婚約者な私との、遠すぎる距離まで知らしめる――
すると幾許かして深く息を吐き出したロボット男がふと、茫然としている私へ真っ黒な瞳を向けて来た。
「すみません怜葉さん、彼女は…」
「婚約者だったの――つい最近までの」
どことなく敵視する眼差しで、ニッコリ口元を緩ませた女性。やけに誇張して聞こえた一言に、この半端な立場で何を言えば良いのか?
ああ2人の発言は言葉足らずで、まったく以って意味が分からない。あえて挙げれば、最近までの婚約者というのは一体、どういう事なのだろうか?
それにしても、寸前まで手を繋いでいた場面を見られず良かったな。まさかこんなトコロで、本命に会う事態になるとは想定外も良いところ。
やはりヒドイ男だと睨みつけたいけども。私の今の立場で出来るのは、偽者なりの笑顔を絶やさないことだ…。
「全く、なに昔の話を、」
「ねぇ、アナタの名前は教えてくれないの?
私は彗星のイトコで、高階 朱莉(タカシナアカリ)よ。ちなみに先月26歳になったばかり」
眉根を寄せて不機嫌らしいロボット男など素知らぬ顔で、見事にぴしゃりと遮った朱莉さんに名乗るように促されてしまう。