戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
切れ長で涼やかさを持つ真っ黒な瞳に、濃すぎずのバランス良いその他のパーツ…。
まさにハレー彗星の、その後を彷彿とさせるようなお方だ。
「社長、恐れ入ります、緒方 怜葉と申します。
お忙しい中、貴重なお時間を頂戴しまして感謝申し上げます」
だからこそ、礼節はもっとも重要となる。お辞儀の姿勢と落ち着いた声色に、細心の注意を払って挨拶をする。
不安でも胸をピシッと張れるから、今さらながら着物であってよかったと思えるけども。
やけに静まり返った室内の中、ひとつ頷いて何かを納得したように一笑したのは社長であった。
「なるほど…、“鞍替え”した理由がよく分かる」
「断じて違います」
さほど私もバカではない、と言いたいのは。社長の発した“鞍替え”のフレーズが、彼女のことを差していると分かるからだ。
間髪いれずに入ったロボット男のフォローより、どこか見下して嘲笑する社長の一言は強力だった。
“鞍替え”と言われたのは、さきほど会った朱莉さんとの関係を肯定しているから、偽である私はこの家…いや社長にとって邪魔者のよう。