戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
まるでその怒りを表すように、バタンと大きな音を立てて閉めたドアなど気にせず歩き出した。
そうなれば必然と着物姿ゆえ歩き辛い私は、小刻みに引きずられて行くしかなくなる。
「なんで…、ですか」
「それは、どういう意味で?」
玄関に到達する中腹あたりで、ようやく紡ぎ出せた言葉にすぐ反応されてしまい、こちらの方が困惑する。
それでも先ほどの社長の発言は気にしないで良い、となぜだか彼の声音を通して伝わってくるから不思議だ。
尋ね返そうが止まりもせず、その広い背中を向けたまま進むから、なんと身勝手な男だろうと詰りたくもなるが。
こうして伺う時間こそタイム・ロスを嫌うし、あえて偽の婚約者にムダを割くのも面倒なのだろう…。
「あ、朱莉さん、は…」
「貴方の気にするところではありませんよ」
「・・・」
サラッと言うとは、何なのよ一体。人がそれなりに遠慮がちに、ドキドキしながら口にした名前を華麗にスルーされるとは酷いわ。