戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
もちろん偽の婚約者には、何ら関係のない話と理解していても。本命との“ご関係”については、女としてやはり気になるところ。
社長と会う直前の彼女の顔つきにしても然り、明らかに忌々しげな眼差しを私へと送って来ていたもの。
今さらだけども、途中で後ろをついて来るのを止めて居なくなった彼女は、あれから姿を見せなかったがどうしたのだろう?
ぼやぼや浮かぶ時間系列を思い出してみれば、社長から受けた“離れろ”宣言がやけに誇張するばかり。
最後には邪魔だという立場を実感する度、アノ頃の弱さがふつふつと自分を覆い始めるから厄介なもの。
どのみち聞けば悲しくなるだけなのに、それを納得しているから救われないな…。
「怜葉さん、何度も言っていますが。
貴方に嘘を吐きません――そう約束しましたよ」
「ええ…、」
「――分かるまで言いましょうか?」
「それは…大丈夫、です」
玄関付近で歩みを止めて振り返ったロボット男から、射るように光る真っ黒な瞳と強い言葉で押し切られそうだった。
今はただ精査する余裕ゼロで、根拠のないソレらの優しさに縋ってしまう。本当に欲しい言葉が貰えない、と心で分かっていても抗えない…。