戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
まして今までも連絡一本寄越さない両親に、私から言いたくもないのが本音。昔のように、“一家の恥”だと罵られるのは嫌で仕方ない。
「名古屋の家の方には?」
「…そのうち、伝えます」
ただし、名古屋のおばあちゃんにはきちんと言わなければ。いま好きな人がいる、と今度こそ笑顔で本心を伝えたい。
やっと専務への気持ちに気づいた私が、その彼から不要になったと言われるのは何時だろう?
だけども今日放った、社長への言葉は本心だから。別れの時が来るまでで構わないから、静かに契約関係を続けていたいと思う。
ふとした瞬間、専務の優しさに触れる度に、何らかの期待をしている浅はかな自分が居るのだ。
朱莉さんとの関係が確かに気になるけども、彼の“嘘は吐かない”という言葉をただ信じていたい。
ああノリユキの件で懲りたクセに…、愛情と学習はどうも相反するモノに思えてならないわ。
言わずもがな嫌味オンパレードで、とかく大嫌いな男だった筈が。まったく正反対の感情が芽生え、反対へと変化するのだから恐ろしいものだ。
昔から何もかも上手く立ち回れない性格ゆえ、ムダな気持ちを携える羽目になったのかもしれないな…。
「どこ行くんですか」
ぐるぐる巡る嫌な空気を振り払いたかったのは本当だが、予想に反した走行をされれば口も勝手に開くだろう。