戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
このまま静観していれば経験上、あの迷惑なバカ力で肩を大きく揺さぶられることだろう。いや、それは決定的なのだ。
こうして昔から変わらないトコロに触れて懐かしく思う反面。そそくさと尻尾を巻いて東京から逃げた私が嬉々とするのは間違いだろう。
嫌なことにしか目がいかずに、拠りどころであった物や人々のことを葬り去ってしまったのだから…。
「なあ姫ぇええ、どうなんだ!?」
「…マーくん、黙って。ていうか静かにして。ううん、その前に離して」
しかしながら、この歳でも相変わらず人の話をいっさい聞かない、彼の姿勢もまた問題だろう。
干渉に浸らせて貰えないことでまた苛立ちを覚えた私の口からは、辛辣な本音が矢継ぎ早に漏れた。
「姫ぇー…ひどいな。せっかくの再会が…」
これまた変化なしなのか、大きな身体に不似合いなハートは私の発言がグサグサと刺さってトーンダウンした模様。
「そう言って、喜んでいるのはマーくんだけでしょう?
だいたい私がココへ来たのは、まったくの不可抗力だから。…この辺りに近づきたくないの」
「…姫、」
「だから、お願い――此処へ来たことは言わないで」
紛れもない本心が声を僅かに震わせたものの、懇願するように押し黙る彼を見据えた。