戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
やはり何か言いたげな表情だから申し訳なるが。それでも、苦笑を浮かべて何も言えない。
「ところで、この方は?」
「あ…、そうですね。専務、さっきから申し訳ありません。
彼は遠く昔のご近所さんで、山本 将敏(ヤマモトマサトシ)です。紹介が遅れてすみませんでした」
その不穏な流れに息苦しさを覚えた時。スッと間に割り入ってくれた、ロボット男へ慌てて紹介をする。
「ただ近所に住んでたんじゃない。とっても大事な人だと言いなさい」
「――見ての通りに面倒な人ですけど、“これでも”このお店の跡取りですから。
マーくん。この方は知ってのとおり、高階さんで、ちなみに私の会社の専務さん」
「だから姫!余計な言葉を付けるなよ…悲しいぞ」
「私は何ともないわ」
「ああー…そうなのか、そうだよな。
うん、確かに姫らしいけどね」
すっかりご贔屓さんへの挨拶も忘却の彼方となり、ぶつぶつ嘆くマーくんは鬱鬱しいし。
やりとりを傍観しつつ、無言を貫くロボット男にも困るものだ。
微妙な空気の中ではなおさら、着る機会の少ない着物の締め付けが苦しく感じた。
これはあまりに対照的すぎる、2人の男の処理に困惑するせいだろう。
「あーあ…彼氏かぁ。彩人が知ったら…」
「――おばさん、お部屋は?」
「あら、忘れててごめんね!
怜葉ちゃんたちのお部屋は、万朶(ばんだ)の間なの。今から…」
「ううん、覚えているし大丈夫だよ。ありがとう。
専務、すみませんけど。これだとしばらくマーくんは黙らないと思うので、放っておいて行きましょう」
「ええ、是非そうして下さい」
「かしこまりました」
こうして結論をつけ、ベラベラ話すマーくんは放置することとした。おばさまから聞いた勝手知ったる奥の間へは、2人でそのまま突き進む。