戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
見上げても天辺まで首が曲がらないほどのビル群の中、またひとつ際立った建物がある。
近代的な造りが行き交う人の目を引き、ドンとした佇まいがまた威圧する建物こそ。
今やIT業界を席巻し、その名が知られた“高階カンパニー”の自社ビルである。
バッグを持つ手に再度キュッと力を込めると、由梨より先に自動ドアを掻い潜った。
その瞬間、ビシバシと悪意ある視線を向けてくるのは――華やかな受付嬢の面々だ。
すぐ後方を歩く由梨と視線を合わせて、ササーッと第一の関門を突破するはずが。
すかさずカウンターから、2人も出て来た素早さと連携プレーで目が点になる。
オマケに行く手を塞がれるとは。何コレ、逃げた方が良い的ですかね…?
「緒方さぁん、ご婚約したんですって?“専務”と」
「専務のご趣味に驚いた…あ、失礼――一般人に目を掛けるなんて、お優しいのね」
表立ってはニッコリとお得意の笑顔を貼りつけ、高らかな声色を響かせているけど。
その発言と目を見れば、明らかに嫌味と怒りが込められているのは私でも分かる。
2期上の先輩と面識の少ない同期は、社内の“最上株”の婚約相手に不満のようだ。