戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
マーくんから逃げるようにして料亭をあとにした私は、専務の顔も見られないまま惰性で再びアウディ車へ乗り込んだ。
そのため車内の空気の重さは、いつもの何十倍にも増していた。
原因はもちろん私であるが、尋ねられるとグッと構えてしまうけども、何も聞かれない状況というのも心臓に悪いと思う。
今すぐこの車を降りて地下鉄で帰宅したいと言えば、無表情なロボット男は怒るだろうか?いや、それは無いだろうな…。
「――降ろしませんよ」
「…何も言ってませんが、」
するとまるでタイミングを計ったように、突飛な思考を制したロボット男の冷たい声。
あまりの的を射た発言には、上手い返事も出来ないものだ。
「それほど貴方は、分かりやすいんですよ。
失礼ながら、役者としては二流の域でしょう――」
「…っ、降ろして!」
「怜葉さん?」
「降ろしてよ…。もう、早く降ろして!」
「一体どうし…」
呆れたと言わんばかりの彼に対し、突然に低い声音を出したためなのか。
癇癪を起した私を珍しく宥めようと、対照的に落ち着き払って牽制してくる。