戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
だけども…ロボット男の言葉で、何か琴線に触れてしまった私の脳内は沸騰状態だった――
「いったい私の、何を知ってるのよ!?そもそも貴方が調べた経歴に、私の気持ちなんて入っていないでしょう!?
と、友達とフツウに遊ぶこととか…ひ、必死に、色んなことを諦めて、どれだけ頑張ってみても…っ。
結局はっ…あ、愛情を向けられなかった本妻の娘でしかなくて…――私は…っ、あの日に父から見捨てられたのよ…!
所詮はっ、どんなに頑張ったっ…て、才能には勝てな…しっ、愛情すら貰えなかっ…たのに…」
つらつら漏れ出る過去は苦しさを増し、チラリ横目で送られて来る視線にも気にする余裕はなかった。
ああダメだ、やっぱり今も苛まれていたのだ。今もまだ捨てきれぬ思いが、これほど心の奥を蝕んでいたとは憐れすぎる。
何よりもずっと隠していた本音を叫んでしまうほど、隣の彼が放った言葉は強力すぎたのだ。まさに何かのデジャヴのように――
「…すみません、」
「何の、謝罪ですか…」
気づけばポロポロ零れていた涙や文句タラタラでしかない、みっともない自身の姿を気にする間もなく。
ひどく落ち着いた声音で紡がれた、彼には珍しい謝罪の言葉が恥ずかしい。
世間は休日ともあって、混雑する大通りの中では路肩にすら寄せることも叶わない状況下。
そのためアウディの走行音は止むことなく、とかく惨めな私の“車から降ろして欲しい”願望は叶えられずにいた。
「感情任せの…明らかに不要な発言で、貴方を傷つけました」
その中で続ける専務の発言にもまた、心にズキンと違う痛みを感じてしまう。
いつもの口調で冷たく突き離したり、呆れて貰えていた方が間違いなく楽だった。