戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


はるかに勘の鋭い由梨の方が、苦虫を潰したような顔つきに変化しているのはさておき。



場に居合わせた社内の人間もまた、この状況の行方を見守らないで頂けませんか…?



「そうですね…。大切な仕事を放棄なさるほど驚かせた事とは思いますが。
緒方さんもこれほど詰め寄られては、“流石に”お困りのようですよ」

「っ…」

その発言主の登場で静まり返ったフロアに、コツ…と小気味良い革靴音が響いた。


エレベーターの到着音すら気づかなかったのは、どうやらコチラに気が向いていたせい。


重役専用のエレベーターが到着すれば、居合わせた社員が頭を垂れるのは日常だけど。


社内メールでの発表ののち、どちらも沈黙を貫いていたしソレも理由に加わるだろう。


この重苦しい静けさに変わったフロアで、いったい誰が言葉を発する事が出来るのか…。


その中をこれ以上は時間の無駄というように、秘書を従えてスタスタと立ち去ったのはアノ男。


この状況での放置プレイは“さすが”。横付けされていたレクサスに乗り込んでしまうとは圧巻だが。



ちょっと待とうか。ロボット男のせいで、ムダなプレッシャーが掛かっただけですし…!


「い、行こ…!」

とりあえずこの場を回避するには“逃げたが勝ち”な気がして、ぽかんとする由梨の手を取った。


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