戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
このままで構わないと言ってのけるような、“強さ”があればと切に願っているのは常だとしても。
専務の言葉をすべて受け流す方が楽だと、既に知っている私にとって。ソレはもっとも簡単なようでいて、じつに難しいことである。
事実ほんの少し過去に触れただけで、あれほど泣き喚いてしまったコトが何よりの証拠。
どれだけ生きてきても、はたまた実家や苦しさから逃げて来たとしても、決して振り切ることは出来ないと知らしめる。
「怜葉ー、この査定表チェックした?」
「あ、ごめん。まだだから、あとに回してくれない?」
ただ恥を晒してしまっただけに終わった、専務のご実家訪問を終えてから、はや3日が過ぎている今日。
とあるファイルを片手にデスクへとやって来た由梨の言葉にささっと返せば、なおさらその手を早めていた私。
そろそろ恒例の異動時期であるため、各部署の担当者から続々と集まる資料のお陰で部内は残業ムード一色だった。
「OK、出来たら教えてね」
「うん、分かった」
同じく慌ただしい彼女から受け取った物は、部署からは絶対に出せないいわゆる“部外秘”の資料一連。
もちろんデータ管理はサーバーが当然であっても、文面や書類として保存するものも当然発生する。
ただでさえ査定表を入力することに息切れしかけているのに、書面でも同様にして不備箇所をチェックするのは気が遠くなるほどだ。
確かに内勤は日々座りっぱなしが多いとはいえ、この週明けからはさらに事務椅子と仲良しになっている気がしてならない。