戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
彼のゲットして来たレジ袋の中を探り、それぞれに希望の品を手にした社員。
彼へのねぎらいも早々に、また素早く席へと落ち着き、また作業に戻ってしまう。
異動に関して一切の情報漏れが無いよう、部外者立ち入り禁止の室内でそれらを片手に仕事をしている現在。
この忙しい時は本当に猫の手を借りたいと思うほど、蓄積する仕事は恨めしいが。これも社会人になれば当然負うこととなる、責任のひとつだろう。
何かを咀嚼する音とPC音とが共鳴する、もはや不気味としか言えない空気感の中、先ほどは冷たく返した加地くんの元へ向かった。
「お疲れさま。はい、どうぞ」
「あ、ありがと…って、またコーヒーかよ」
すこし破顔して呆れている彼は、それを受け取ってからカップに口をつけた。
この部署にはコーヒーサーバーしかなく、淹れて来れるといえばコレだ。
「え?おにぎりとコーヒーって合うのに」
「いやー…、絶対おかしい。大半がコーヒーにはケーキ派じゃね?」
「あー、まだケーキと緑茶の組み合わせ、加地くん試して無いでしょ?
まあ私的には、コーヒーとおにぎりの最強タッグは朝オンリーだけどねぇ」
「…トッキー、やっぱ不思議だ」
うんうん頷きながら、私もコーヒーに口をつけたところ、またしても彼お馴染みのフレーズが飛び出た。
名古屋で習った通りに過ごしている私の味覚は、周囲に時おりオカシイと思われている。
“まさにトッキー・ワールドだよな”などと、どう差し引きしても失礼発言であるからもはや苦笑ものだ。