戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
再びエレベーターに乗り込んだ私たちは、ロボット男の押した地上へと目指していた。
そこでようやく離れた手に俄かに安堵しつつ、積もったフラストレーションと鼓動の高鳴りがまだ消えないから困る。
「怜葉さんの好きなブランドは?」
「・・・は?」
眼を合わせるのも気まずいが、俯いている方がもっと癪だと思うから。
どんどん下降するデジタル表示の数字を、無言でジッと見ていれば頭上から降って来た言葉。
しまった…、今の反応だと、社内では明らかに失礼な態度だったか。
それでも権力高き彼には珍しすぎる、あまりの単刀直入な問い掛けに思えた。
社会人経験の足らない私は当然のごとく、眉根を寄せてしまったのである。もちろん、彼の意図するモノが見えなかっただけだ…。
「今日は着物よりドレスが良いので」
「どういう事ですか」
ああ、この男はやはり何時でも話が飛躍している。先ほどの件にしても…同行者だとか何とか、こちらに一切の説明も無しにボスに報告されて迷惑だった。
「さっき言った通りですよ」
「へー…、そうですか」
“それを必要とする理由”を聞いているのよ、と返すのも疲れ始めて、やる気のない声音がエレベーター内に響いた。