戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
どこまでも勝手なことは重々承知しているけども、必要以上に低燃費な脳内処理速度にも溜め息ものだ。
「それなら、俺好みに仕立てて良いですね」
「…勝手にどうぞ」
「了解しました」
「ええ、…お願いいたします」
意思疎通が出来ていないとしても、これ以上の会話は押し問答にもならないと学んでいるから。
いち早く白旗を上げていた私が、もう色々な意味で諦める外ない。
何よりエレベーターで2人きりの状況の中、彼の真っ黒な瞳と対峙するのは心地が悪くて。
あまり領域に踏み込まれたくない、と目的地の到着を知らせる音と同時にスッと開くドアから、一目散でその密室空間を逃げることにした。
到着したそこが地下駐車場という時点で、今日もまたロボット男の運転でどこかへ向かうことは分かった。
癪だがなぜか覚えていたアウディTTSへ乗り込めば、独特のエンジン音を響かせて静かに発進する車。
このまま以前と変わらず、ノン・シュガーで居た方がすべてが上手くいくのに。
どうしてもそれを嫌がる本心が、やけに大人げなく思えた…。