戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
しかしながら、ドレスを着るとなれば話は別――まして、思いきり日本人体型の自分となれば如何なものだろう…。
さして気にせず、適当に見繕ってくれれば良いというのに、人の気持ちを量らないこの男は品定めを始めてしまった。
彼の要望に沿って店側が揃えてくれた、今シーズンの華やかドレスが十数点も並べ立てられてる光景は圧巻もの。
レースがふんだんにあしらわれたフェミニンなものはまだしも、スリットの深く入ったセクシーなロングドレスには困惑するわ。
あれ、どうでも良いと言いながら、買って頂く身で私こそアレコレ失礼かもしれない。
「この黒ビーズドレスはクールすぎる」
「このロングドレスだと靴はどれを?」
「このデザイン…、たしかに流行は抑えていますが、胸元が寂しすぎますね。
彼女の身長では却って、シンプルさが悪目立ちしますよ」
とはいえ、先ほどから一切口を挟ませない注文の多い男に唖然とさせられている。
いやいや、貴方はデザイナーかスタイリストか、はたまたファッション評論家ですか。
そうして洋服を一瞥してはコメントする眼が、私の知りうる仕事中のそれに近しい。
自由な男は思いきりどうでも良いようだが、明らかに店員さんの笑顔が引き攣っている点はこちらが気になるものだ。
すっかり他人事に苦笑しつつ、そんな光景を他人事のように見ていたのはそこまで。
彼の眼差しがこちらに向いた瞬間、とうとう選び抜かれたドレスをフィッティングする羽目になった。