戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
悲しいことに、恋が芽生えず、愛も一切はぐくまれず、人として好きになれなくても。
出来てしまうひとつのモノに“婚約”という縛りがあるのは、しがない世の定め。
すなわちソレは考えようによると、誰とでも未来の約束を出来るという悲しい事実。
とはいえ。愛していると言われても、まっとうに愛を信じる人種でも無いけれど…――
「緒方 怜葉(オガタトキハ)さん。私と婚約しましょう」
「いえ、…結構です」
ここはカコンと、ししおどしが小気味良く響き渡る、素晴らしい日本庭園を望む和室。
向かい側で無表情にプロポーズまがいの言葉をかけられ、ハッと鼻で笑おうとすれば。
「それでは、バラしても宜しいのですね」
「…もっと嫌です」
「では、交渉成立ですね」
言い返す言葉が見つからないうえ、言い返せたとしてもいたちごっこだろう。
交渉した覚えなど無いのに、あっけなく押し問答は終わりを告げてしまった。