戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


悲しいことに、恋が芽生えず、愛も一切はぐくまれず、人として好きになれなくても。


出来てしまうひとつのモノに“婚約”という縛りがあるのは、しがない世の定め。


すなわちソレは考えようによると、誰とでも未来の約束を出来るという悲しい事実。



とはいえ。愛していると言われても、まっとうに愛を信じる人種でも無いけれど…――



「緒方 怜葉(オガタトキハ)さん。私と婚約しましょう」

「いえ、…結構です」

ここはカコンと、ししおどしが小気味良く響き渡る、素晴らしい日本庭園を望む和室。


向かい側で無表情にプロポーズまがいの言葉をかけられ、ハッと鼻で笑おうとすれば。


「それでは、バラしても宜しいのですね」

「…もっと嫌です」

「では、交渉成立ですね」


言い返す言葉が見つからないうえ、言い返せたとしてもいたちごっこだろう。


交渉した覚えなど無いのに、あっけなく押し問答は終わりを告げてしまった。


< 2 / 400 >

この作品をシェア

pagetop