戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
それを辿るように見上げれば、いつの間にかオールバックに変化していた髪型に合う、よりお洒落なスタイルへ変貌を遂げた男なのだが。
「TPOはどうしました?」
「…彗星さん、すみません」
すべてが完全無欠のロボットのクセに、そんな些細なものに眉根を寄せて言うことだろうか、と可愛げのない嫌味を込めて返した。
「そうです――時間も無いので急ぎますよ」
たが、今回もサラリとかわした専務は腕時計へチラリ視線を置き、半ば呆れる私を連れ立って颯爽とお店をあとにする。
「どこへ行くんですか、」
「ああ、高階一族が集まる、ちょっとした会です。
此処から少し距離もあるので、寝ていて構いませんよ」
「…いえ、大丈夫です。
わたしは、丈夫なだけが取り柄ですから」
イチイチ考えるより本題だ、と腰元へ手を置いて誘う彼に尋ねれば。
走行性能バツグンなアウディTTSへと乗り込んだ時、ようやく今日の仕事が判明した。
但し、その答えに大きな問題がある。高階一族が集まる時点で、彼の言う“ちょっとした”という次元を超越しているに違いないから。
そして何より、今回のパーティーへ来ているであろう、彼の身内の社長や朱莉さんと私が対面しても良いのだろうか?
普通すぎる自分に、自信を持てる箇所は僅かだ。今度こそ例の2人に会えば、自身の中で何かが変わる予感がしてならない。
だからこそ強くあるために今後頼れるものは、今まで培って来た自身の処世術だけで。すべてが拙いなりに細やかな演技を見せなければ…。