戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
やはりロボット男の顔を、ここでもまともに見られなくなる。
どうしても輝く人たちから目を逸らしたくなるから、私は本当に逃げるのが得意な女だ。
まして美人もなければ演技派でもない――歌舞伎役者として大成出来なかった理由がようやく分かった。
昔どれほど舞に費やそうが、“今後成長の見込みはない”と俄かに囁かれていたことも知っていたから、幼い頃は躍起になっていた。
歌舞伎界で有名すぎる父の実の娘だから、いつかは…と足掻いていた頃を虚しく回顧すれば、現在の私が出せる答えはひとつ。
上手い切り返しが出来ないでいる今も残念ながら器量良しとは無縁であり、なおかつこれという特技も見当たらず、まさに大根役者の何者でもない。
ああ今さら分かっていたことを言っても…、と小さく自嘲笑いを浮かべたところ、ふとした視線に気づいて見上げた。
するとその先で真っ黒な瞳にジッと捉われたものだから、その色の真剣さで思わず泣きそうになった。
あれほど演技派だと暗示をかけて来て不甲斐無いけども、縋りつきたいくらいにとにかく心が弱っているみたいね…。
「怜葉さん?」
彼の呼び掛けに対して何と答えて良いのか分からず、ヘラリ笑ってみれば。ムリヤリに取り繕った分、なおさら惨めな気分に陥るだけ。