戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
その冷徹で抑揚のない声音が、やけに息苦しい心中に優しく響くものから。もうすべてから逃げ出してしまいたい気分だ。
「あの…た、体調が優れないので、失礼します」
「何故…いや、大丈夫ですか?」
「…専務、すみません」
この異質な空気を綺麗に変えるには“要らない”私が退けば良いのだから、涙の代わりに小さな笑顔で余裕を見せた。
「――専務、ですか」
「あ、すみません、…彗星さん」
但し、表情に気を取られるばかりで、こういう大事な時にまた落ち度が目立ってしまう。
ますます居た堪れなくなり、残された道は視線を落とすばかりだ。
今もなお本命の女性に抱き締められたままでいるロボット男を、なぜここまで私は嫌いになれずにいるのだろう…?
「…朱莉」
「ちょっと、何なの!?」
「分かるだろ…、いい加減離してくれ」
目の奥の痛みと戦っていた私と同様に、周囲も行く末を案じてシンと静まっていたのだろう。
重苦しさが漂い始めた刹那、冷たく響いた声と大きな手とが彼女を一気に引き離していた。