戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
美麗な2人の傍らにポツンと佇んでいながら、あたかも無関係のようにその中へ口を挟むことには憚れている私。
だけども、それは放たれているピリピリした居心地の悪い空気より、偽物は黙っているべきだという保身がそうさせていた。
つまりは泣きたくても泣けず、ここでも逃げの姿勢を取っていたのだ…。
「――朱莉、離せ」
「どういうつもりよ!」
後ずさりしたくなればなるほど、緊迫してゆく2人のパワーに圧倒されて動けなくなる。
さらにその度合いが増すごとに静まる一帯は、固唾を呑んでこちらの行方を見ていた。
かく言う私もふかふかの赤い絨毯に沈んだハイヒールの足元は震えて覚束ない。
しかしながら、今ここで本命の朱莉さんが怒る必要は全くないというのに何故だろう?
「いい加減、気が済んだだろ?」
「済むわけないわよ…!
勝手なことをしたのは誰!?何で…なんで、怜葉さんを、っ…ひ、卑怯じゃない…っ!」
オーガンジー素材が揺れる綺麗なドレスの裾を翻し、なおも冷徹男に喰い下がる彼女を辺りは不憫に思っているに違いない。