戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
怒り狂う朱莉さんへは同情の目が向けられ、それを冷たく制すロボット男と無言を貫く私には避難の眼が向けられていることにも気づいていた。
ただし、ここで無言を貫く道を選ぶ余裕が私には一切ないとは声高に伝えたい。
その証拠に目線をどこへ置けば良いのかさえ分からないのだから…。
「だから落ち着けって言ってるだろう?大体、いま彼女には何も関係ないことだ。
これは俺が決めたんだし、同時に朱莉自身がそれを望んでいた――違うのか?」
「違う、違う…!彗星が…わるいっ」
「いや、違わない。何度も話した」
「ひど…っ」
流石と言うべきか…、狼狽(ろうばい)の色合いが出始めた私と対照的に。
いっさい何も構わず諄々と彼女に何かを説いているロボット男の眼差しは平素と変わらず濃いまま。
さらには冷淡な声色からはその真剣さが窺えるから、不思議なほど寂しさを覚えてしまった。
「なあ朱莉、いいか…――本当はどうするべきなのか、自分でよく分かってるだろ?
ありがとう大丈夫だよ、発言はその場限りの嘘だったのか?」
「ち、がう…けどっ、やっぱり…っ」
「朱莉は誰よりイイ女だから…、もう泣くな」
ふるふる頭を振って泣く彼女の頭を小さく撫でながら、吐く言葉の数々は冷たいものであったけども。
僅かに笑みを浮かべた男の表情が、見ているだけの私の胸をグッと締めつけた。
この2人の間にあるものはまったく見えないが…、それでもその中には確かな絆が見え隠れしている。
ここで何か崩れてしまう前に。逃げるつもりだった者が出来るのは、その温かみある様相をただ傍観するのみ。
彼が彼女へ放つ、優しい言葉しか耳に入らない私。かたや泣いている朱莉さんへハンカチを手渡して慰める男。