戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
何度も小さいながらに頭を振って、早く帰りたいのだと意思表示をしていたものの。
どうしたことか、残念なほどに今も思案を続ける彼女には伝わらない。
するとその相容れない間に割り入って来た大きな手が、頭を振って何かを呟く朱莉さんの柔らかそうに揺れる頭を感触を確かめるように撫でる。
途端にズキンと胸の痛みが始めるから、どうしようもないほど息苦しくなった。
私にはして貰えないソレが、彼女と私の立場の違いを知らせるから惨いよ…。
「あ、あのね?その、怜葉さん…」
「いや、ここだと不都合だ――怜葉さんすみませんが、少しだけロビーでお待ち頂けますか?」
ようやく意を決したように言葉を発した彼女をさらりと冷たい声色で諌めた、ロボット男の真っ黒な眼がまっすぐに私を捉えた。
「…かしこまりました、」
「ありがとう。朱莉と話し終えたら、俺もすぐ戻ります」
一切の濁りを見せない漆黒の色に屈し、もはや諦めの境地でコクリと小さく頷けば、僅かに冷笑を浮かべたのちに朱莉さんを誘ったロボット男。
「ちょっと、彗星!私は、」
「――良いから、行こう」
「…分かったわ、」
日頃から手入れの行き届いていると分かる、すべすべな背中を露わにした大胆なドレス姿の彼女。
その華奢な肩へそっと手を置いた彼は、ごくごく当たり前のように歩を合わせて私から離れて行く。