戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
ぽかぽか心地よい昼間の穏やかな気候とは打って変わり、夜はさすがに冷たいビル風に包まれている一帯に目を配る。
そこではたと気づいたのは、日常とは染まれる訳のない煌びやかなドレスに身を包んでいた自身の姿。
薄闇に染まった都会の夜空をひとり、違和感たっぷりなスタイルで歩く私には、通りすがりの人々から好奇の視線が向けられる。
その居心地の悪さを避けたくて、視線を合わせずに済む俯き加減で歩いてみると。
コツコツと小気味良く鳴り響く音主の、赤いエナメルのパンプスが視界に入った。
今度はそれからも逃げるように視線を逸らしてしまい、視線すら迷子になった気分だ。
タクシーにも乗り込まず私は何をしているの?と、自嘲笑いを浮かべた筈が目の奥にツンと痛みを覚える。
あれほど会場で我慢を重ねた涙が、ポロリと虚しく零れ落ちたものの。いっさい遮るものがない今、堪え切れる訳もなかった…。
そうなれば暫く止まりそうもない、冷たい涙が頬を徐々に濡らしていく。
せめてそれを拭おうとバッグに手を掛けたものの…、お洒落重視のクラッチタイプではハンカチが入らず、泣く泣く諦めていたと気づいて。
ハンカチ不携帯とは女子失格だ、とますます自己嫌悪するより早く。
朱莉さんへハンカチを差し出したロボット男の姿が過ぎり、孤独感と辛さがいっそう増す。
それなら指で拭おうか、と男らしく出来れば良いのだけども。
あいにく華やかに施されたジェル・ネイルがまた邪魔となり、何だか目を傷つけそうで擦れない。