戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
日々の休憩終わりに感じる憂欝感は、いつも午後の慌ただしさに追われて流れてしまうもの。
そうして定時から1時間を過ぎた頃、本日のメドをつけた私は潔くバッグを手にして立ち上がった。
「お先に失礼します」
「お疲れー」
まだまだ残って仕事に励む同僚へ頭を下げつつ、人事部のフロアをひとり静かに抜け出した。
社員IDカードをかざして退社する際、チラチラと向けられる他部署の目は気になったものの。
何にも気づいていないフリを通し、音楽プレーヤーのイヤホンを填めて素知らぬ顔をしていた。
更衣室に立ち寄らずそのままで帰宅出来るのは、アンサンブルニットとスカートという格好のお陰。
TPOを弁えればスタイルにあまり縛りの無い所は、自由な社風を自慢とするIT企業の特権だ。
ちなみに由梨といえば、今日はネイルサロンの予約を入れていたとかで定時上がりだった。
そのお店の初回優待券をチラつかれて誘われたものの、あいにく行ける余裕は現在ゼロに等しい。
まぁ…彼女は実家住まいだし、自由になるお金で社会人ライフを謳歌出来るから羨ましいと思うけど。
オフィスの近所にある実家へ戻るくらいなら、まだ借金生活でいた方がどれほどマシだろう?