戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
そうこうしている間にも。丹念にして頂いたメイクまでもが崩れていくから、無常な涙さえ自身で取り去れない悔しさが募った。
ゆらゆら揺れる瞳で無用にも捉えたのは、偽物の証でしかない薬指のエンゲージ・リング。
中央で存在感を放つ、穢れなきダイヤモンドが街並みの光で小さく煌めいた。
いっそのこと外して捨ててしまいたいのに…、どうしても今はしたくない。
矛盾した感情に苛まれる私は、こうして最後の最後まで悪あがきをするだろう。
初めの頃は彼を悉く嫌っておきながら、今さら契約であった筈の均衡を崩しかけたせいだ――
「…ひ、く…っ、」
世間の日常とかけ離れすぎたドレス姿で泣き歩く私を、通行人はますます不審に思っているに違いない。
そんな掻き捨ての恥など今さらどうでも良くて…、もう何をどう思われていても構わなかった。
「――それなら、どうしてアノ場で泣かなかったの?」
ひとり泣き止まない変な女に対し、ひそひそと煙たがる好奇の声音が響いていたけども。
不意に訳知りの声音で尋ねられた刹那、背後から片腕を掴まれてしまう…。