戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
その表情を追いかけて視線が上へ向かえば、口元を緩ませている落ち着いた男性と対峙することに。
まさに見つめ合う形となったその刹那。スッと通った鼻梁に切れ長の目が涼しげな、バランス良い繊細な顔立ちから微かな記憶がふと蘇えった。
「…も、もしかして――さ、…悟くん?」
「ご名答――良かった、覚えててくれて」
「…どうして、」
「ああ、それは――高階の関係者に呼ばれて出席していてね。
怜葉ちゃん、大丈夫…じゃないよね?」
「う…、ひっ、うぅー…っ」
突然の懐かしい彼との再会で驚いた私が目を瞬かせれば、ふわり微笑を見せて優しく名前を呼んでくれたから。
会えたという嬉しさからなのか、または安心したからなのか…。
何にも判断がつかないほど少し落ち着いていた涙腺が刺激されて、ポロポロ零れ落ち始めたら止まらなくなる。
そんな弱気で無様な姿を構わずに晒せば、“辛かったね”と大きな手でぽんぽん頭を撫でられてしまう。
心がホッと温まりながらも専務と朱莉さんの姿が脳裏を過ぎるから、まさにデジャヴも良いところだ。
あいにく苦笑さえ浮かべられず、目の前で心配そうな彼が与えてくれる手のぬくもりに甘えてしまっていた。