戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


いやいや、もちろん声の主が大きな原因であったのだけども。

おそるおそる周囲をくまなく見渡せば、その答えである男が、この部屋との続き部屋から平然と顔を覗かせている。


気まずさゆえに俯き加減で自身の姿を一瞥してしまったのは、なけなしの乙女心が自然とそうさせたが。


眠っていたことによる乱れ以外は、ドレスもヘアも何ら変化なしも案外と悲しいものだ。


すると鋭い視線を感じて目を向ければ、真っ黒な瞳がこちらを淡々と捉えて離さない。



無言のままでは気まずさばかりが倍増するうえ、なぜあなたがここに居るのでしょう…?



「怜葉さん――貴方にとって、約束とは安易に破るものですか?
確かに“はい”と言って頷いたのを聞いたのは、俺の聞き間違いでしたか?」

「…、」


「そうですか。どうしても信じられないと、」

淡々とした声色を響かせて溜め息を吐き、所在なげに俯いた私が身を置くベッドへ近づいて来るのは紛れもなくロボット男だ。



ジワリ、ジワリと追いこむようにその距離を詰めて、あたかも答えは出ていると言った口調で言われてはまったく反論出来ない。


そもそも専務の方こそ朱莉さんを優先させていたクセに、偽者である私が一方的に言われる筋合いがないと思う。



何よりも私は、会場で専務を待つと約束をしたのではない。


あれ以上の混乱を避けようと、大人だからと必死に取り繕っていただけ。さらに言うなれば、約束するほどの間柄でも何でもないから。


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