戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
骨ばった指先の感覚がやけにリアルで、くっと息を呑めば扇情的な眼差しで嘲笑されただけ。
ああ下手なところで馬鹿正直な自身を今日こそ呪いたい。
その間にも縮まっていた、わずか50センチの距離こそ恨めしくて堪らないものだ。
ふわりと鼻腔を掠めるロボット男のユニセックスな香りに、ネクタイを緩めてボタンを2つ外したシャツの下からのぞく首筋。
そのすべてが鼓動を早め、目の前の淡々とした男を“オトコ”として意識させるばかり。
平常心でいられない今はもう、顔の火照りを隠せる余裕もゼロに等しい。
そもそも目覚めた時点で、どんな状況であろうが素早くベット上から抜け出せば良かったと今さら思う。
なおもジリジリこの距離を詰められる度に、ギシリと響くベッドのスプリング音が卑猥なものに聞こえて仕方ない。
まさしく違った方へと誘引されている気がし、それに従いかけている自身の弱さが悔しさを連れてくる。
こうして私が動揺に駆られている最中でも、対峙する冷淡男はくつくつ笑ってこの瞬間を楽しむに過ぎないのだ。
まさに浅はかな考えどころか、隠している奥底の彼への想いまでズルズル引き出されそう。
途端に怖さが募って、無心になりたいがゆえギュッと固く目を瞑っていた。
「ああ、それが正しいですね」
そんな短絡的すぎる逃げの姿勢ですべてをシャットアウトすれば、まさしく予想打にしなかった満足気な声韻に包まれた。