戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


目は口ほどに物を言う――すなわち間接的でなく、直接となる本人の口からはっきりと言われた場合、そのダメージ力は絶大なもの。


確かに先ほどの発言が自身の彼氏であれば、些細な嫉妬だと嬉しく感じられるのかもしれない。


しかしながら、忘れてならないのがひとつ…、この男の場合それが当て嵌まらない関係であること。



そのため大切な本命が居る男に、偽者が別の男に身を預けていたなどとイチイチ揶揄される謂われもない。


それを差し置いて一方的に責め立てるとは、目の前の男はどれほど冷淡で勝手なのだと質したくもなる。



「…別に、私の勝手じゃ」

「勝手?婚約者のある身で、平然とそれを言いますか」


不貞腐れた態度は今さら、と取り繕うことなく口を尖らせれば。その端正な顔はぴくりと眉根を寄せ訝しげな眼差しを向けて来るから。


なお一層のこと、無駄でしかないフラストレーションが溜まるのを感じた。


「…何で、そんなこと」


“偽者の私に尋ねる必要がありますか?”と言えず、グッと奥歯を噛みしめるだけに終わってしまう。


ただ保身のために伝えたかったのは、男の胸で泣かせて貰ったのは数少ないこと。


昔から彼氏に弱みを見せること自体が少なくて、相手からすれば可愛げのない女に映ったほどに。


そんなムダに我慢と共存している私が、十数年ぶりに再会した悟くんに警戒せず、甘え縋りながら泣いたことは尋常と言える事態だった。


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