戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
ツンとした目の奥の痛みを堪える術は未だに知らないけど、ふつふつと湧き上がる感情を抑える術は会得していて良かった。
辛いと感じる時こそ真っ直ぐに、そのロボット男の眼を見るべきだと弱々しく見据えるのみ。
「…わ、私は所詮――どこでも、偽者ですから…、気になさらなくて良いです」
「どういう意味で?」
「…いま言ったとおり、です」
「それでは理解出来かねます。
怜葉さん――どういう意味ですか」
「…、」
リズム良く返って来る声色にはいっさいの抑揚がない。また隅をつつくように問い掛けられて、こちらの方が言葉に詰まって沈黙を貫くばかりだ。
容赦なく質してくるロボット男には、私の狼狽を一切汲み取って貰える訳もなく、焦りと動揺から視線が泳ぎ始めた。
「――怜葉さん、目を合わせない理由は?」
頭が良すぎる彼にとって、私が口にした“偽者”の意味を図ることは朝飯前に違いないだろう。
但し、性格に物事を遂行出来る彼の特異な冷淡さが、簡単にそれを許してくれないよう。
まして何度も名前を呼ばれることがどれほど辛いか…、何も察して貰えない立場に息苦しさが募り、ズキズキとした痛みがさらに身に沁みた。
「――貴方はバカです」
「…な、んで、」
限界に達した涙腺によって視界がゆらゆら揺れ始め、冷たい涙が頬を濡らすよりも早く、大きな手が両頬をふわり包み込むように包んだ。