戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
暫くして都心から離れた閑静な住宅街にある、“広さは皆無”がウリな1Kのアパートが見えてきた。
由梨たちから今どき物騒だと言われる、オートロックも無い、築10年ほど経った2階建てだが。
この古ぼけた小さな場所が、私の心を落ち着かせてくれる唯一の安住の地だ…――
「――大変ですね、通勤に時間が掛かると」
「…え!?」
塞がっている両手で部屋のキーを取り出そうとバッグへ目を向けていた時、ふと響いた冷たい声に驚愕だ。
これでは耳慣れてしまったと認めているから頂けないが、その声がした方へと目を向けるしかない。
すると人の部屋のドアの前を塞ぐように立っている、今日の昼に腹を立てた原因の姿に落胆させられた。
「な、何でココに…!」
近所迷惑なんて置き去りにするほどサプライズな来客に目を見開かされるとは、ああ厄日かもしれない。
自分で発しておきながら、この耳をつんざくような喚き声にも顔色ひとつ変えやしないからさすがに思うが。
古ぼけた小さなアパートとは明らかに不似合いな男は、いったい何が目的でやって来たのだろうか?
ぼんやり光るライトに照らされる男の姿を訝しげに見ていれば、ドアへ背を持たれていた彼が体勢を元に戻した。
そうして静かに、コチラへと真っ黒な瞳を向けてくるロボット男。その優雅さには呆れるばかりだ。