戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
堪えるだとか信じるだとか…、冷酷すぎる貴方が口にすべきセリフかと言いたいけども。
手の力が緩められたことに気づき、不思議と真っ黒な眼の色が寂しげに見えた――だから口の悪い私でも、その口を噤んでしまったのだ。
大体キスされて悔しいのは私なのに…、悪い気がするから何も言えなくなる。
「…怜葉さん、」
手の温かみが途切れずにいる現在。とうとう耐えきれなくなり、視線をふいと逸らした。
すると今度は、引きつけさせるように名前を呼ぶから気まずいもの。こういう無機質な真っ黒な瞳が憂いを帯びると厄介。
それに嵌まりかけるから恐ろしい――ああ様々な意味で、この男の存在は危険だわ。
「聞こえてますよね」
「…、」
「怜葉さん」
「…聞こえてますよ!あーもう疲れた!
何なの一体…、私が悪いとか知りませんよ!?
そもそもアナタは、結局私に何が言いたいんですか!?」
その距離にして僅か60センチ…、無言を貫きたい相手と対峙するには少しばかり近すぎる。