戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
それでも余裕ゼロの状況下で、私が必死で紡ぎ出した結論であるのだが。
どうやら陳腐さがお気に召さないと言いたげに、再びピクリと眉根を寄せたロボット男へ言い返す最中。
「怜葉さん」
「あ、おっ、お酒に酔ったんですね?」
「違うでしょう。それで、怜葉さん」
「あ、あー…、そうか。専務は疲れていたから、彼女と間違えた」
幾度も耳慣れた冷たい声音で名を呼ばれる度。どうしてもその冷たさと反発するように鼓動が跳ねてしまう。
意味不明の理由をつけて逃げようと模索して答えを言えば、くつくつと笑うものだから終いには言葉に詰まってしまう。
「自分好みに仕立てた女性を、誰が見間違えますか」
「そっ、それなら…、」
「何を言っても逃げられませんよ。
今日くらい、諦めてはどうでしょう?」
「…、」
そうこうする間にも、じわりじわり縮まりゆく距離に対して目を伏せる――それは、負け惜しみに近しい無言でのYES。
それを受け取ったと返すように、生ぬるい温度で唇を塞がれた刹那。大きなベッドへ2人して自然と身が沈んでいた。
この一夜限りで構わない――どことなく性急に思えた口づけが時の始まりを告げ、一切の思考回路を絶ってしまう。