戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


ほどなく内を潤したその指で、頬を濡らす涙を拭われた自身はひどく惨めなもの。


何を感じているのか計り知れないものの、この状況では熱と氷を一斉に浴びた気分に陥るのも事実。


その矛盾した感情が渦を巻きながらも、どれも抗えなかったのは欲望が勝っていたから。



そして――いま私を組み敷く彼が“枷ゼロ”な婚約者であれば、と今さら仮定してしまうのはきっと。


騙された元彼のノリユキを含む、歴代の彼氏や関係した男と比に値しないほど、身体の“相性”が良すぎたため。


かつてのセックスでは誰にも感じられなかったほど、不思議なほど相手を受け入れるのがスムーズで。


そうして彼から降りてくる甘さと激情の往来は、壮絶へのステップと言っても過言でない。


あたかもドラッグで侵されたように、“さらに欲しい”と自らねだるのは正直初めてであった…。


――なぜこの男を求めて許されるのは、今日限りなのだろう?


どうして大切な本命が居るのだろう。どうして出会ってしまったのだろう…。



複雑な想いなど一切伝わっていないクセに、扇情的な眼差しを向けて来る彼が憎らしく思えてもなお。


その扇情的に感じる真っ黒な瞳とふと目が合えば、どちらともなくキスを交わしてしまう。


まさに浮気相手との時間を楽しむような安い誘いであっても、心の痛みとは裏腹にすべてを受け入れてしまっていた。


「…ふ、ぅ、んっ、」

シンと静まり返ったスイートで響く甘美なリップノイズに、角度を変えられてさらに重なる唇。


易々と舌先の侵入を許せばもう、あとは熱に絆された舌と舌が複雑に絡み合っていく…。


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