戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
だがしかし、トドメにも似た最後の失礼極まりない発言ではたと気づかされる。
窓越しのあたたかな日差しから瞬時に。まったく以って失礼な彼へと焦点を合わせ、嫌味混じりの笑みをニコリ浮かべた。
「そうだね。どうぞそのまま放っておいて?
でもね。そう言う人こそ、彼女の尻に敷かれっぱなしで不憫ね」
「うわっ、こわ」
「自業自得よ。一言多いのよ毎回」
「由梨ちゃんまで言う?…ああ何でオレばっか、」
「また言う…。加地くんイコール、ネガティブ草食――由梨どう思う?」
「いっそのこと標語でよくない?」
明らかに八つ当たりでしかない辛辣発言にも、うんうん頷いて同調してくれる由梨。
その彼女は私以上に呆れた様子で、どことなく落胆気味の加地くんをチラリ横見する兵(つわもの)である。
今日もオフィスで繰り広げられる、“普通”の日常にいささかホッとしてしまった。
専務に抱かれた余韻を引き摺って出社した職場では――いつものように朝からバリバリ働ける気力・体力がゼロに近く、自席へ着くなり重い溜め息を吐き出したほど。
目の前のデスクでは多くの資料やメモ書きが残されていたというのに、それさえモチベーションを上げるには事足りなかったから…。
時を遡ること早朝6時の某高級ホテルの一室で、静寂を切り裂くようなモーニング・コールが鳴り響いた。
煩さと真夜中のセックスによるあまりの疲労感から、それに応対する気力などゼロでシーツをまた被って寝返りを打とうとした刹那。
3時間ほど前まで確かに左方でこの身体を引き寄せていた腕の力はおろか、ロボット男の姿さえ忽然と消えていると気づく。