戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
それを実際にトライする勇気もなく。何かに屈したように、その携帯から視線を逸らす行為を繰り返していた。
分かっていても実は、深く落胆していると気づいた時。連絡を密かに待っている自分をひどく滑稽に感じたけど。
そんな諸事情を露とも知らない同僚と笑った私は、勝手に気分転換をさせて貰ったのだ。
当のロボット男は、オフィスで冷酷無情で通っているが。彼の僅かな温かさに触れた時、通常より優しく感じられるのは殊更で。
そのあたりが貴公子と呼ばれるルーツであるかもしれない、と今さら合点がいく。
以前に彼から“信じて欲しい”と言われただけで。何も知らないままに心を躍らせた女が言うのだから、少しの信憑性はあると思う。
たとえば忙しい中で帰りを待っていてくれたり、わざわざ迎えに来てくれたり…。
いつでも冷たい言葉を浴びせるクセに、その行動は誠実だから信頼を置いてしまうのだ。
同情や温情に似た優しさをすっかり勘違いし、立場を忘れていたことをようやく分かった瞬間。
彼にすべてをアッサリ委ねてしまった、どうしようもなく愚かな女だと自重したくて堪らない。