戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
ただ…これがもし本命であったのならという仮定が、昨日からずっと頭の片隅に残されたままだ。
こんな辛い残骸が残ってしまうのなら…、勢いに乗せてひた隠しに終えた、“本音”を露呈すれば良かったな。
どれを取ってみても結局――怖じ気づいたゆえの卑怯な結果論でしかないけども…。
「ねえ怜葉――突然だけど今日の夜、ご飯食べに行けない?」
暫くして課長に呼ばれて、溜め息交じりに席を立った加地くん。その不憫な姿を見届けると、彼の背中を叩いて送り出した由梨がお誘いがかかる。
「え、今日?私なら大丈夫だけど…。確かデートじゃ…」
「ああ、さっき連絡入ってね…。特急の案件が入ったから徹夜だって言うの。
欧風料理の予約してあったけど、“キャンセルせずに友達と行って来たら?”って言うし、」
「そっか、残念だね、…でも良いの?」
ちなみに彼氏は高校時代からの知り合いで、今は国立の研究施設で研究員をしているそう。
ずっと友人関係が続いていた2人が付き合い始めたのは、社会人になってからだと彼女から聞いている。
「もちろん――今日は怜葉ご指名よ」
「それはそれは光栄です」
「ふふっ、じゃああとでね」
気の置けない彼女の優しさに心が温められ、彼氏の代わりにはなれなくても楽しませて貰おうと思った。
それと同時に、独りでは考え込むだけだから救われた気分――この胸に痞えて収まらない想いを消し去りたくて…。