戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
白ワインは海産物と合わせるのがベストと巷でよく言うものの、結局のところは自身の舌がお酒を美味しく感じられれば良いと思う。
「えー、それがダメなの、私はね」
「人の味覚って不思議よねぇ」
「怜葉が言うのそれを?
コーヒーとおにぎりがベストマッチとか言うアンタが」
「何気に失礼だからね、それ――由梨だってマヨラーのクセして」
「マヨネーズは月末の財政危機を救うのよ」
「うん、…確かにね」
ちなみに彼女はオリーブが苦手。いつもランチでオリーブと遭遇した時は、素早くプレゼント(要は避けただけ)してくれる。
今日もスプリッツァーを飲みながら、生ハムとチーズにしか手をつけていない。
という訳で私の目の前には、昔から好きな黒オリーブが艶々とその照りを主張させているのだ。
「ほんと美味しそうに食べるよねぇ」
「え、そう?」
「加地くんも言ってるよ?“トッキーの食いっぷりは清々しい”って」
最近オードブルとお酒を嗜む時間など、本当にお金と時間の余裕がなくて久しぶりだから、思っていた以上に心は高揚していたらしい。
くすくす笑っている由梨にそう言われてしまうと、どれだけ食い意地の張ったキャラとして認識されているのだろうか…。
「ところで、専務とはどうなの?」
「…っ、」
早くも2杯目のスプリッツァーが半ばに差し掛かった時――予想していたものの、早すぎるお尋ねに思わず飲んでいたそれを噴き出しそうになった。