戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
ゴホゴホ、と咳をすれば、“何してんの”と呆れた表情を浮かべられたけども。
周囲のムーディーな雰囲気を壊しかねないと、口から液体が零れ落ちるのを堪えたことは称えて欲しいものだ。
「…至ってフツー、」
「また出た」
「だって、フツーなんだもん」
ここは素知らぬ振りで通してしまおうと、黒光りしているオリーブを口に入れ味わうように咀嚼に集中するが。
「へー…、今日遅刻ギリギリで出社したのに?」
「…寝坊したの」
「――その割に化粧も服装も完璧だったよねぇ。
相当ラブラブなんだなぁ…、あー羨ましい」
「どう言えと?」
目ざとい彼女のご指摘通り、モーニングコールで寝坊とは無縁に起床していたのも事実。
ただし、いい加減にマンションを出ないと遅刻する時間寸前まで、仕事をサボるか否か思案していたに過ぎないが。
「もー、じれったいなぁ。専務ってやっぱり優しいの?」
「っ…」
平静を装ってグラスを傾けていた私は、ニヤニヤ笑う彼女からのトンデモナイ一言で咽かけそうになる。